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京都地方裁判所 昭和60年(わ)650号 判決

本籍

大津市大萱二丁目一五五番地

住居

同市大萱二丁目一八番二六号

貸倉庫業

近藤傅治郎

大正四年六月二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官福嶋成二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟賢用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自己の所有する大津市一里山五丁目字丸尾一六二七番地ほか五筆の畑及び田を昭和五八年一一月二一日及び同年一二月一三日合計一億七四四四万四七〇〇円で売却譲渡したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、全日本同和会京都府・市連合会会長鈴木元動丸、同会副会長村井英雄、同会事務局長長谷部純夫及び同会事務局次長渡守秀治らと共謀の上、自己の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億二七二二万二四六五円、総合課税の総所得(不動産所得、給与所得)金額は二三〇万四九五八円で、これに対する所得税額は三五五七万四三〇〇円であるにもかかわらず、株式会社ワールドが有限会社同和産業(代表取締役鈴木元動丸)から二億円の借入れをし、その債務について、自己が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから、右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同年一二月二八日に一億一二〇〇万円を履行したが、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を破った旨仮装するなどした上、同五九年三月一五日、大津市中央四丁目六番五五号所轄大津税務署において、同署長に対し、自己の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一五二二万二四六五円、総合課税の総所得金額は一六六万四〇五八円で、これに対する所得税額は三一六万七四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右の正規の所得税額三五五七万四三〇〇円との差額三二二八万二七〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(五通、検第二九ないし三三号)

一  証人松本善雄、同惣司定次郎、同山中隆雄及び同近藤正夫の当公判廷における各供述

一  法澤剛雄(検第三号)、佐藤潔(二通、検第四号、第五号)、山中隆雄(三通、検第六ないし八号、ただし、第七号については、一八丁表三行目から六項末尾までを、第八号については、二五丁裏六行目から六行末尾までを各除く。)松本善雄(七通、検第九ないし一五号、ただし、第九号については、四丁裏一〇行目「ておりました。」の次から、五丁表八行目までを、第一〇号については、二六項、二七項、二九項を、第一一号については、四項冒頭から四丁裏一行までを、第一四号については、三五項を各除く。)、惣司定次郎(六通、検第一六ないし二一号、ただし、第一八号については、四一項を除く。)、近藤正夫(三通、検第二二ないし二四号、ただし、第二四号については、三一項を除く。)、田代和子(二通、検第二五号、第二六号)、村井英雄(三通、検第三六ないし三八号)、長谷部純夫(二通、検第三九号、第四〇号)及び鈴木元動丸(検第四一号)の検察官に対する各供述調書(以上のうち、検第四号、第九ないし一二号、第一五ないし二六号、第三六ないし四一号はいずれも謄本、検第五ないし八号、第一三号、第一四号はいずれも抄本)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第一号)、各報告書(二通、検第二号、第三五号、ただし、第三五号は謄本)及び証明書(検第三四号)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法六〇条、所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役及び罰金の併科刑を選択し、なお情状により同条二項を適用して、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役八月及び罰金八〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、懲役刑については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間その執行を猶予し、訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、判示のように、被告人が全日本同和会京都府・市連合会幹部らと共謀のうえ、所得税法六四条二項の規定を悪用し、三二二八万円余の税金をほ脱したという事案であって、ほ脱金額が前記のように多額にのぼるうえに、ほ脱率も約九〇パーセントと高率であること等考え合わせると、その犯情は悪質で、被告人の刑事責任は重いものといわざるを得ないが、本件犯行に至る経緯として、前示畑及び田の売却は、専らカネボウ不動産株式会社の団地造成計面に基く同会社の都合による同会社からの誘いによったもので、被告人としては、当初はこれに応じなかったものの、税金分は同会社において負担するなどの特約のもとでこれらを売却することとしたものであって、結果として、本件により実質的に利得したのは同会社であるのに対し、納税義務者である被告人は、重加算税を完納することは当然としても、結果としては、その所有する畑や田を減少させてしまったこと、更には、被告人には前科前歴がなく、今回のことを深く反者していること等被告人に有利な事情を十分参酌して主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 萩原昌三郎 裁判官 氷室眞 裁判官 和田真)

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